小児科教授に聴く!人類と病気の共存環境の育み
山村:今回のゲストは、大変ビッグな方にお越しいただいたんですけれども、小児医療に取り組む、医師の、吉原重美先生をお招きしています。吉原先生は、現在、独協医科大学医学部小児科学教室主任教授、並びに、今年の4月からは、獨協医科大学病院の副院長にご就任されたということで、大変お忙しい中、お越しをいただきました。吉原先生、きょうはよろしくお願いいたします。
吉原:よろしくお願いいたします。
山村:早速なんですけれども、もう、県内で小児アレルギーと言えば、吉原先生のお名前がすぐに挙がってくるという、うちの幼稚園や保育園の子どもたちも、吉原先生にお世話になってる子も随分、多いんですけれども。今、小児アレルギーっていうのは、どんな現状なんでしょうか。先生の目からご覧になって。
吉原:小児アレルギー疾患全体としましては、増加傾向にあるということでありまして、特に、食物アレルギーに関しましては、1.7倍、最近10年ぐらいですね。そしてまた、そこで発生します、アナフィラキシーっていうのが3倍ぐらいということで、増加してます。
山村:昔って、そんなにアレルギーなんてあまり気にしなかったと、私の小さい頃はね。この辺りは、どういうことが原因だというふうにお考えなんですか。
吉原:最近、一番、言われてますのは、衛生化説ということで、簡単に言ってしまえば、環境がきれいなったことで、アレルギー疾患が増加してるということなんですけども。具体的にお話ししますと、デンマークの疫学的なデータなんですけども、農業国ですので、牛や馬と一緒に、乳母車で生まれた赤ちゃんが行っているお子さまと、都会のマンションの中で、生まれて生活している子どもさんと比較しますと、マンションで住んでる子どもさんのほうが、アレルギーが多いということで、それを調べていきますと、細菌成分のエンドトキシンっていうのが、糞便中にありまして、それが、何らかの形で、赤ちゃんの体内に入ることによって、アレルギーを発生させないようなリンパ球の働きが出てくるというようなことがありまして、最近は、そこが注目されてるところだと思います。
山村:私の個人の話で申し訳ないんですけど、私、本当に田舎で、そんなに裕福なわけじゃない中で育ったときに、ヤギとか飼ってたんですよね。藁の上で遊んだりとか、そういうのしてたのをちょっと思い出しながら、この便の話を聞きながら思ってたんですけど。
吉原:今の子どもさん見ますと、ほとんどテレビゲーム、それから、外で遊ぶことが危険度が高いということで、室内にいるということがあるので、恐らくその辺のところは、データとしては、はっきりした物はないですけれども、十分に関連してるんじゃないかと思います。
山村:今、環境の話がありましたけれども、体質でそうなるわけですよね。
吉原:アレルギーの発症に関しましては、生まれたときの体質、すなわち家族にアレルギー疾患を持つ人がいて、本人が小さい頃に、アレルギー疾患、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎を持ってるっていう方が、アレルギーマーチといいまして、いろんなアレルギー疾患、ぜんそくや花粉症も、発症してくるんですけども、今、お話ししました重症度に関しては、あまり、それに対しての試験っていうのは、まだはっきり分かってないんですよね。
山村:先生は、どうしてアレルギーの方向、専門にしようと思われたんですか。
吉原:アレルギーに関しましては、私が学生のときに、教えてくださった先生や、それから、大学院のときに教えてくださった先生の恩師がアレルギー専門だったということが一つと。二つ目は、何となく、これからアレルギー疾患って増加してくるんじゃないかなというのが思ったのが二つ目で、三つ目は、研修医から当直を当然、月に6、7回やってましたけれども、それで夜中に、ぜんそく発作で来る患者さんが必ずいたんですね。ぜんそくもアレルギー疾患なので、何とか、コントロールよくしてあげたいと。そして中には、当時、見ていた患者さんの中で、ぜんそく支援がある患者さんもいましたので、やはりこれはやりがいのある疾患だなと思った、その三つが、大きなきっかけだと思います。
山村:アレルギーに関する問題っていうのに対する解決方法とか、考え方っていうのは、昔と今では随分、違うんですか。
吉原:かなり違うと思います。例えば、ぜんそくやアトピー性皮膚炎で言いますと、ぜんそく、ステロイドの吸入薬っていうのが、今は標準治療になってますけども、30年前には、ステロイドは副作用が強いのであんまり使わないようにっていうことがありましたし、アトピー性皮膚炎に関しましても、非ステロイド性の抗炎症軟膏で、ステロイドはそんなに多く使わずにというのが30年前ですけども。現在は、基本病態が気道の炎症であったり、皮膚の炎症なので、ステロイドは世界的にも、ガイドラインの中でも標準値のように載ってますので、それだけ180度変わったですし。
例えば、食物アレルギーに関しましても、ある程度、除去して、そして食べれるようになるかどうかを検討してくっていうことがありまして、その中で特に、妊娠中のお母さまの、妊娠後期に食物アレルギーになりやすい、卵、牛乳、小麦粉等を除去したり、それから母乳をあげてるときにそれを減らしたり、離乳食を遅らされたりというふうに、1990年前半までは言われたんですけれども。それ以降は全く逆で、妊娠後期や母乳をあげてるときに、お母さんはそういった食物を食することは、全く発症には影響を及ぼさないと。それから離乳食を遅らせるほうが、むしろ発症しやすい。全く逆になってます。
山村:そんなふうに医療って変わっていくわけですよね。当たり前のことだけど。
吉原:そのとおりだと思います。
山村:そういったことを先生は今、学生さんたちを指導するっていうお立場にもいて、どんなふうに学生には伝えていくんですか。
吉原:いろんな例を出して、そして、例えば、学生が使ってる教科書っていうのがいくつかあるんですけれども、その教科書を中心に、もちろん国家試験を勉強して、通らなければいけないんですけども。ただ、実際の来る患者さんっていうのは、教科書の、例えば診断基準であれば、診断基準を100パーセント満たしてる患者さんなんて、わずか30パーセントぐらいで、全然、診断基準の、例えば5項目陽性なところが、2項目陽性だったらどうするかっていうことがものすごく重要なんですね、臨床では。これをほっとくと、診断しなかったり治療しなかったために後遺症が出たりとか。それから、一方で教科書的なことはしっかりと理解はするけれども、今後、医師になってからは、医師になることが目的ではなくて、医師になってから初めて、そういう勉強ができるんだっていうことで、一生涯を通じて、そういう日進月歩な医学の進歩っていうのを、しっかりと勉強していかなければいけないんだということを、授業の最初か最後には、必ず学生には伝えてます。
山村:後半でちょっと、コロナの問題にも触れたいんですけれども、こういった新型コロナのような感染症が起きてきたときに、今の学生さんたちっていうのは、本当に、いい時をもしかしたら生きてるかもしれないんだけれども、でも、非常に不確実な時代がもう来てるんだ、そこに対して、どんなふうに対応していけばいいっていうふうに、先生はアドバイスとかされるんですか。
吉原:なかなか難しいご質問ですけど。ただ、コロナは、やはり病気ですので、ある意味、学生の時代にそういったコロナウイルスによって、いろんな対策、三密であるとか、いろいろ言われてますけれども、そういうことが実地の勉強になるといいますか、もし自分が医師になってたらとか、そういうことと、自分の、一般人としてどういう行動すればいいかということの、プロフェッショナルリズムっていうんですかね、それを学生の時代から考えることができたということは、逆に言えば、医学生の行動範囲も減りますし、バーチャルによる講義が多いわけですけど、ウェブによる講義も多いわけですけども、制約がある中で、やはり最大限の、逆に、家でできる勉強であるとか、家でできる勉強以外のやらなければいけないこと。
例えば、ある学生に聞きましたら、学校に行かなくていいので、英語のレッスンを30分から1時間、毎日やってると。将来的に、医学は世界的なことなので、いろんな先生と話すっていうことで。やはり、どのようにこのCOVID-19が流行ってまして、どのように自分が、それを生かして生活していくかということの考えを、自分で思ったり作れるっていうことが重要じゃないかとっていうふうに学生とは話してます。
山村:話がちょっと最初に戻ってしまうかもしれないんですけれども。先生、アレルギーのお子さんを対象に、キャンプなんか、今までされてたんだろうと思うんですけれども、今のこの状況の中で、これから先、そういったことをどんなふうに再構築されていこうと思われてるんですか。
吉原:実は、今年は、アレルギーキャンプや食物アレルギー教室も、コロナの影響で中止にはしたんですけれども。ただ、いつも参加してる方や、新たに参加したい方から、参加したいという申し出もかなりありますので、じゃあ来年は、ぜひ開く方向で考えてますというお話をして、既に30回もやっておりますし。それからアレルギーキャンプ自体は、例えば、芳賀日赤でありますとか、自治医大であるとか、杏林大学であるとか、いろんな所から、一緒にキャンプに参加したいということで、ここ数年は、いろんな所の方、来てくださってますので、来年以降は通常どおり、コロナの流行さえ収束すれば、できるんではないかなというふうに考えてるんですけど。
山村:アレルギー疾患をお持ちのお子さんを、また見られてるお母さんやお父さんがた、随分、心配もされてると思うんですけれども、このコロナ禍の中での、もし、そういったお父さんやお母さんがたにアドバイスをするとしたらどんなことがありますか。
吉原:基礎疾患があるようなお子さんは、より重篤化しやすいと言われてるんですけども、アレルギーに関しましては、食物アレルギーのお子さんも、ぜんそくのお子さんも今のところは、あんまり増悪するようなウイルスっていうことではなさそうなんです。新型インフルエンザが出ましたときには、ぜんそくの増悪っていうのは、かなりあるインフルエンザだったんですけども、今回のコロナウイルスは、あまりアレルギー疾患には影響しないものですから、それほど心配せず、普通の生活を送っていく中で、もちろん、何か症状の変化がありましたら、すぐかかりつけ医の先生の所に行くってことで、心配ないんではないかと思います。