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森林学教授に聴く!森と人のいい関係の育み

山村:さて今日は、宇都宮大学農学部、森林科学科教授の大久保達弘先生をゲストにお迎えして、森をテーマに先生が育んできたこと、森を育むことについてお話をお聞きしたいと思います。大久保先生、よろしくお願いいたします。

大久保:どうぞよろしくお願いいたします。

山村:さて、森と一言で言ってもいろんな分野があるんだろうと思うんですけれども、大久保先生はどのようなことがご専門なんでしょうか。

大久保:農学部の森林科学科という所に所属しておりまして、山を総合的な観点、社会科学から自然科学まで網羅的にカバーしてそれに基づいた森づくりとか木材の利用、そういうことを教える、そういうふうな学科です。

山村:何か森林科学と聞くとデータを蓄積して科学的な事実を積み重ねていくというようなイメージがあったんですけれども、そうすると社会人文系の要素みたいなものも入ってくるんですか。

大久保:そうですね。人文、社会、それから自然科学、そういうような基礎的な知識を基に森づくり、いわゆる林業、それから森林、林業としての山、山づくりというそういうふうなことを考えると。農学部というのは農業と、大きく分けると林業と2つの、ほかにも水産とかがありますけれども、他の学科は例えば農芸化学だとか農学、それから畜産、そういうような主に農業のほうなんですけれども、森林科学のほうは林業ということで林業に関するミニ農学部みたいなそういうふうな位置付けになっています。

山村:なるほど。先生は学生の皆さんにどんなことを具体的にというか、教えていらっしゃるのか。

大久保:専門は森林の生態的な知識を基にした育林学と、「林を育てる学問」と書くんですが、他の大学では造林学と「林を造る」というふうなことなんですが、造林といいますと木を植えるという意味合いが強いので、そこから後の長い育てる期間をむしろ強調して育林学というふうなことで。そういう木を育てる過程で、例えばいろいろと人が手入れをします。やはり自然力を活用するというのが山をつくる特徴なんですけれども、そこが一番農業と違う点です。農業は植えれば水も必要ですし、肥料も必要です。ですが、木は基本的に山の上に植えたら水もやりません。部分的には肥料をやりますけれども基本的には肥料をやりません。だから山の自然力を生かして育てると。だから山の知識というんですか、自然の知識というのは非常に重要になります。それは農業に比べてずっと必要になるわけです。だから、そういう森林の生態ということをベースに森を育てるというふうなスタンスになります。そこが大きく農業と違う点です。

山村:学生さんたちはそういった育林学に接してどんなことを感じたり、どんなことを学んでいる様子なんですか。

大久保:やはり私自身もそうだったんですけれども森を育てるということを実際にやった学生というのはほとんどいなくて。最初に聞くんです。「これまで木を植えたことがある人はどのぐらいいますか」というふうなことを聞くとまずゼロですね。せいぜい植えても庭の植木を植えた。だから山に木を植えた人っていうのはまずほとんどいないので、だからまず1年生に入った時に植林の実習を5月にやります。それを一度やると、やはりかなり木を植えるということが心に残るみたいで、非常にいい体験になるみたいです。

実習ではそれだけではなくて、木を植えるプラス木を手入れするということで、例えば下刈りという草を刈って植えた木を早く育てるようにする。それから枝打ちといって、いい木を育てる、節のない木を育てるために枝を切ってやるとか。それから間伐といって、普通は3000本ぐらい植えるんですけれども60年ぐらいたつと大体500~600本になります。そうしますと3000マイナス600本とします。そうすると2400本は途中で枯れるか間伐で切るか、そういうふうにして減らしてやるわけですね。だから手入れの段階で、3000本を600本にする段階で非常にいいものを残していくとそういう手入れを。実際は同時進行的に動いていますから、そういうところを経験すると、例えばこれが25年たった山、それから下刈りですと5年たった山とか、そういうのを実感しながらずっと森の中を見ますから、例えば自分が植えた木が30年ぐらいたつとどのぐらいになるのかということはある程度学生も実感できる部分です。

山村:何か意地悪な言い方であれなんですけれども、自分が植えたのが20年くらいしたところで間伐されちゃったなんていうことはないんですか。

大久保:そうですね、あります。十分あります。

山村:でも、それはそれでやむを得ないということを分からせるにはいいですよね。

大久保:そうですね。だから木を育てるというか、庭木ですと木を育てるという感覚がありますけれども、山の場合は林を育てるということで、ここの林は自分がつくったということであればその中の幾つかが間伐されても……

山村:やむを得ないと。

大久保:やむを得ないと。というふうな感覚かなと思います。

山村:なるほど。

大久保:だから実習では数十本植えます。大学1年生の時と3年生の時に植えます。

山村:大久保先生が森林と出会ったルーツというか、なぜ森林の世界に入られたんでしょうか。

大久保:これは、私が育ったのは東京の武蔵野市という所なんですけれども、ちょうど昭和30年代の初めに、いわゆる国木田独歩の『武蔵野』、あそこのすぐそばなんです。雑木林が非常に多かったです。そういう中で虫を取ったり遊んだりとそういうふうなところがきっかけですし、当時は公団住宅にいたんですけれども、そこの住宅の中でたき火して炊飯したり、やっているグループがあるんですよ。それがボーイスカウトだったんです。それで何かそういう活動をぜひやってみたいななんて、ちょっと子どもなりに思ったんですかね。それで関わるようになって、小学校、中学校の頃にキャンプとかで数十泊ぐらいしましたけれども、そういう中で山の楽しさっていうんですかね。それとあと高校の時に山岳部に入っていて、その中で山の中の生活だとか、人の生活だとか林業。林業もまだ分かんなかったですけれども植えてある木、そういうところに。

 あとは植物がちょっと好きだったものですから、そういうところで山に関するそういう自然科学、特に生き物に関してすごく興味が湧いてきて。大学を選ぶ段で、最初は分かんなかったんですけれども、1浪した時に四手井綱英という里山を提唱した先生がいるんですけれども、その先生が書いた『森林の価値』という本をたまたま本屋さんで見つけて、そしたら非常に自分の考えとよく似ていると。

それとあと『農学部の案内』というそういうガイドブックがあったんですけれども、それを読んでいると、その四手井綱英という先生が書いていたんです。農学部のガイドなんですけれども中に書いてあるのは、当時は林学科といったんですけれども、林学科のことがほとんど書いてありましたね。そうして中にある写真とかで、そういう演習林というのがあると。簡単に言うと医学部に付属病院があるのと同じように林学科に演習林というのがあるんですけれども、そういうものを知って、じゃこういうとこでいろいろ実習ができるんだったら楽しいかなということで選びました。

山村:やっぱり幼い頃の経験とか体験が今に生きているんですね。

大久保:そうですね。

山村:先生は昨年の夏ですか、ボルネオにも行かれたそうですけれども何をしに行かれたんですか。

大久保:1990年からもうボルネオとか、あと東南アジアの山に行くようになりまして、最近の10年間は、もともと日本での研究テーマが広葉樹の中のブナだったんですけれども、ブナと関わりの深い植物というのでブナ科の簡単に言うとドングリを付ける植物ですね、それをずっと追いかけています。ボルネオ島に約100種類ぐらいブナ科のドングリがあるんですけれども、日本ですと20種類ぐらいなんですが向こうだと100種類ぐらいあります。

山村:100種類ですか。

大久保:はい。一応ドングリの起源に当たるような場所の一つの中心がボルネオです。そこをずっと歩いて。かなり熱帯ですからドングリがある場所というのは相当標高が高い熱帯山地なんですけれども、そこを歩いてドングリを探すと。ドングリを探してそれを分類する。それから葉っぱからDNAを採種して系統関係を見るとかそういうふうな調査をしています。その過程で山に住んでいるいろんな森の、森の人はオランウータンですが人間も住んでいまして、人たちの家なんかにホームステイしながら調査しますので、そういうところで森に住んでいる人たちの生活というのが非常に興味深く知ることができたんです。そういうものは少し学生には紹介するようにしています。

山村:でも面白い所ですよね。ところで、ボルネオに行かれた時に音を採取されてきたというふうに伺っているんですけれども、その音を皆さんにもお聴きいただきたいと思います。この音は何の音なんでしょうか。

大久保:これはオランウータン保護区の夜の音です。鳥、虫、カエル、そういうのが混ざった音ですね。夜のほうが非常に動物とかが活発に動きます。

山村:何か自然の中にいる感じがしてとても聴きやすいですね。

大久保:そうですね。熱帯の森は1億年の歴史があるというふうにいわれています。1億年の歴史の中で生物が進化して、その結果できた音というふうに考えていいんじゃないかなと思います。

山村:じゃ先生は1億年前に接してきたという。

大久保: 1億年の中でできてきた音を聴いてきたということ。それをぜひ皆さん方に。最初は何か曲ということだったんですけれども思い浮かぶのがなくて、ぜひこれを聴いていただきたいなというふうに。

山村:何か五感が揺さぶられる、そういう感じがしますね。

大久保先生と”森”についての話の続きは、コチラ!

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