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感性工学教授に聴く!機会・ロボットに宿す感性の育み

山村:さて、今回の対談のお相手は、宇都宮大学工学部附属ものづくり創生工学センター、副センター長、準教授の渡辺信一さんです。渡辺先生は、宇都宮大学工学部で、機会システム工学を学び、2003年に、同大大学院をご卒業。専門分野は感性情報学で、人間の感覚のような曖昧なものを数値に表すという研究をなさっています。渡辺先生、きょうはよろしくお願いします。

渡辺:よろしくお願いします。

山村:今、ご紹介したんですけれども、感性工学っていうんですかね、先生は、感性情報学がご専門なんですけれど、今、工学部に所属ということで、感性工学、その研究内容っていうのを、分かりやすく教えていただけますか。

渡辺:まず、感性工学の中の、感性という言葉なんですけども、漢字で書きますと、感は感想文の感、性は性質の性、簡単に言いますと、人間がどういうふうに感じるかとか、どういうふうに思う、物事を見たり聞いたりして、どういうふうに感じるかっていうことが感性というふうに、一応、簡単には表せると思います。それを工学的に、調べてみよう、つまり人間が感じたことを、数値で表せて、それを何か、使えないかなというふうに、そういう研究です。

例えば、皆さん、日常生活の中で、長さとか、重さとか、そういうものをよく使うと思うんですけども、この物の長さは何メートルとか、何キログラムとか、そういうふうに単位というか、皆さんが共通して使うような値を使ってると思うんですけども。人間がその他で使う、感性的な情報っていうのは、なかなか単位がないと。それを少し、数値で表すことによって、皆さんで共通の認識を持てたらいいなというような、学問の分野です。

山村:私は、渡辺先生とお会いして、初めてこういう研究分野があるんだっていうのが分かって、実は、この感性工学っていう分野をちょっと調べてみたら、結構、マーケティングの世界に関係するんですよね。

渡辺:そうですね。たまたま、われわれ工学の分野の研究というか、人間なので、いずれは工学的に何か応用したいなということなんですけども、もう少し今、横展開といいますか、拡張すると、人がどういうふうに思ってるか、集団の中で、人がどう思ってるかもありますし、個人として、どう思ってるかっていうのもありますので、マーケットとか、社会状況とか、そういうものに対して応用できる分野かなと、技術的にはそうかなというふうには思っております。

山村:メーカーとユーザーを、非常に距離を近づける研究をされてるんだなと思って。例えば、車で言えば、シートの色であるとか、シートの触れたときの感覚みたいなもののときに、どういった素材を使えばいいのかとか、そういうようなことにもつながってくわけですよね。

渡辺:具体的に、今、お話にあったような、自動車の内装インテリアというか、そいういうの、自動車メーカーさん独自で、開発というか研究されてる所もあります。例えば、そのダッシュボードのざらつき、表面の粗さとか、模様とか、触り心地とかを、トータル的に判断して、高級感を出すとか、それなりの表面形状とか性状とかっていうふうに言うんですけども、そういう特徴を出すにはどういう模様にしたらいいかとか、凹凸にしたらいいかとかっていうのを研究している分野もあります。

山村:人間の感性とかっていうのは、主観的だし、人によって違うし、決して論理的に説明ができるわけではないところを、その工学的なアプローチというか、化学的なアプローチっていう意味では、相反するところがあるように思うんですけれども、その辺のところはどんなふうに解決しようとしてるんですか。

渡辺:おっしゃるとおり、各、一人一人でも感じ方も違いますし、1人でも時間とか、いる場所とか、体調とかによって、いろいろ心理状態っていうのが変わると思いますので、そこは、ある程度、多数、大人数の方の意見を伺って、そこで、数学で言うと統計処理を行って平均を出すとか、ばらつきがどのぐらいあるかっていうのを見て、それで、ほとんどの人といいますか、ある一定の人数の人たちがこう思う感覚っていうのはこうだよね、そこから外れると、この辺からこの辺までは、人それぞれいろいろあるんだけども、この辺の値は大勢の人が大体そう思う感覚だよねっていうところで落としどころとしてます。

ですから、一般的に工学ですと、解というか、答えが一つに求めたいところなんですけども、この分野ですと、ある程度、幅を持たせて、普通という表現はあれですけども、多数の人が思うのは、この辺からこの辺の範囲ですよねというところを、解として導き出すというところです。

例えば、こういう音楽を聞くと、リラックスするとか落ち着くとかっていうのが、ある程度、分かってると、じゃあ、ちょっと帰り際にこういう音楽をかけて帰ろうとか、そうすると、機嫌が悪いのが、さらに機嫌が悪くなるか、穏やかになるかっていうのは、音楽一つで変わるかもしれないっていう、その選択肢として、感性工学の実験が使えると面白いかなと思います。

山村:そうですよね。そういった、その感性工学なんですけれども、そもそも、どうして先生は、感性工学に取り組もうと思われたんですか。

渡辺:私、大学が、先ほどご紹介ありましたように、機械システム工学科ということで、メカを研究する学問の学科にいたんですけれども、その中の一つの分野に、計測工学っていうのがありまして、先ほど申し上げました、計測というのは、物を測る方法をいろいろ議論する学問なんですけども、その中で、大学の授業ですから、最初は長さを測るにはどうしたらいい、例えば、スケールを使うんですけども、実際は、読み取り誤差がありますよとか、重さ量るにしても、プラスマイナス何グラムの誤差はありますよと、そういうのをどういうふうに処理するかとか、そういうのを一般的に計測工学というところで勉強します。

授業では、そういうレベルで終わってしまうんですけども、それを担当してた先生が、長さや重さとか、測れるものは大体、方法が確立したんで、もうちょっと違う物を測ってみようというのに興味を持たれてて、それで、その先生の研究テーマで、人間の感覚を数値化して、例えばこれから、われわれの日常生活の中に、機会やロボットが導入されたときに、機械と人間がうまく共存するための一つの手段として、この計測工学を生かせないかということで、そういう人間の曖昧な量を定量化、数値化する研究をされて、それで、その話を伺って、面白そうだなと思って、研究を始めました。

山村:もう何年くらいされてるんですか。

渡辺:15年ぐらいですかね。

山村:今までに先生が研究されてきた中で、何か面白いエピソードようなものっていうのはあるんですか。

渡辺:僕は、主に、研究した始めから今、触覚、触り心地っていうのをテーマにやっています。で、研究室の学生なんかと、いろいろと実験をして、その後、データをまとめて、考察をするわけなんですけども。そのときに、僕なんかもう、おじさんなんで、もう決まった形にまとめてしまったりとか、考察したりとかしてしまうんですけど、やっぱり学生と、そういう議論することによって、違う見方をしたりとか、考え方をして、またそういう解釈もあるんだなっていうのがあります。

特に、ちょっと印象深かったのが、先ほど申し上げましたように、生体情報、人間の血圧とか、脈拍とかと連動させて、因果関係とか、関係性が出ないかっていうようなのを考察しようとした学生がいて。なかなか、その生体計測っていうのも設備の面とかで、いろいろハードルが高い面があって、すぐにはできないんですけども、他の大学の先生の研究のデータとかを参考に、自分の持っている、自分が実験した結果と、他の研究者が行った結果を結び付けて、新しい考察を行ったとかというのがあって。大学にいないと、なかなかそういう経験はできないなと思って、貴重な経験をさしてもらったという印象というか、思いではあります。

山村:ある意味、この分野って、ばらばらな物を結び付けていきながら、何か新しい価値を見出していくっていうか、そういうことを学んでいける分野のように思うんですよね。

渡辺:そうですね。例えば、何か色を見て、音楽でもいいんですけど、色を見て、きれいな色とか、爽やかな印象を受けるとか、いろいろあると思うんですけれども、それって色だけではなくて、実は他にも要素があるわけなんですけども、その中で特に、色だけに注目すると、ある印象が抽出できたりとかすることで、結構、人間の感じ方とか思いって、いろいろなんだなっていうふうに。まさしく十人十色といいますか、そういうところで人間の不思議さというか。

山村:なるほどね。でも、面白い分野だなというふうに思います。今、感性工学というものについてお聞きしてきたわけですけれども、後半は、感性工学という研究分野の可能性のようなものの話を聞いていきたいなというふうに思っているんですが、この番組は、きょうはもう、収録という形でやってるんですけれども。

今、この新型コロナウイルスの問題が、世間を、本当に震撼させてるように思うんですけれども、こういった話の中で、例えば自粛というものを求められてきているわけですけれども、この自粛というものであったりとか、あるいは、お店を閉店していくというような話のときに、私がきょう、お話を伺いながら思っていたことというのは、そういった、自粛というものに対して、どういった感覚を人々が持っているのかというようなことを、感性工学の分野で、アプリなり何なりを開発して、今、ラインで、厚生労働省とラインが共同研究のような形で、調査というような形で調べていますけれども、ああいったことを、例えば、感性工学の分野でやって、それがその政策につなげていけるような可能性っていうのをちょっと思ったんですけれども、先生から見て、いかがですか。例えば、この新型コロナの問題に、感性工学という研究の分野が貢献できるとすれば、どんな形なんでしょうか。

渡辺:可能性はゼロではないと思います。ただ、何事も万能なものはないので、参考資料になるのか、制作にどこまで生かせるのかは不透明っていうか、未知数ですけれども。

一つの考え方としては、例えば、ネットで何か政府から方針が、休校とか、自粛とかって出たときに、ツイッターとか、SNSでいろいろ投稿、書き込みがあると思います。それを、いろいろ集めて、今どういうふうな、人間の集団心理として、どういうふうに世の中が捉えられているのかっていうのを分析するのは可能だと思います。

ただ、なかなか前例がないといいますか、どういうふうにまとめるかっていうのは、私はそういう社会学とか政治学とかの専門ではないので、正確な、はっきりした答えは持ってないんですけれども、基本的には、感性工学って、最終的には数学の統計の話に持ってきますので、そういう数学的な知見というか技術を使って、そういうデータを、その専門の方と共同で分析することによって、どういうふうな動きになるのかはちょっと難しいかもしれませんけど、なっているのかっていうのを、判断するのは、可能性はあるというふうに思います。

山村:そこが、数値化をした場合に、顕在化できることがあるだろうっていうことですよね。

渡辺:そうですね。

山村:これから、先生、今の研究をとおして、例えば学生に育んでいきたいことであったりとか、あるいはご自分で、こんなことをやっていきたいというようなことがあったら、ぜひ、お聞かせいただきたいんですが。

渡辺:そうですね。大学の教員という立場ですので、一つの使命としては、学生の教育をして、社会に出たときに活躍してもらいたいという思いがあって、そのための、学生にとっては一つのツールといいますか、手段として、大学での研究活動、つまり、自分で問題を発見して、解決をして、まとめて発表するというプロセスを踏んでもらって、社会に出て、さまざまな未知の問題に遭遇すると思いますので、そのときの一つのシミュレーションといいますか、練習といいますか、そういうのに使って、学生の教育には役立ててもらいたいというふうに思っていますし。個人的には、一学者として、自分の研究成果が何かしらの形で社会に還元してもらえると、非常にうれしいかなというふうには思っております。

山村:先生の研究の成果っていうのは、どちらかで見ることはできるんですか。例えば、企業の人たちが使いたいなとか思ったときに。

渡辺:学会とかで、学会誌に論文として投稿して、掲載されてる物もいくつかありますし、場合によっては、個人的にご連絡いただければ、お話を伺うということはできると思います。

山村:感性工学のこれから、今、社会課題の解決とかSDGsの問題だとか、いろいろ、こういった新型ウイルスの問題であったりとか、本当に、不確定な時代を生きているわれわれにとって、感性工学の未来っていうか、先生がイメージされてることありますか。

渡辺:社会うんぬんっていうのは、なかなか今まで考えてないので、答えとしては持ってないですけど、例えば身近な問題として、工学部の人間として、世の中に、先ほども申し上げましたけど、機械とかロボットとか、日常生活の中に出てきたときに、今、現時点でその物たちと会話をするというか、コミュニケーションを取るときって、数字で表さないといけない、つまり、何かロボットが作業してて、そこを人が通りたいといったときに、ロボットに、あと1メーター右に寄ってとか、奥に行ってとか、具体的に1メーターとか、50センチとかって指示してないと、そのとおりじゃ動けないですけども、もう少し右に寄ってくれるとか、向きをちょっと変えてくれるとかってそういう曖昧なニュアンス的な表現で話し掛けることによって、向こうが人間の意図してることを、ある程度、察して、そのように行動してくれるような仕掛けというか、手段として使えると面白いかなと。

厳密に医療とか、人間の生き死に関わるところの機械やロボットに対して、曖昧な表現で指示をするっていうのは非常に危険なんですけども、多少の間違った行動をされても笑って済ませるような、そういう日常生活の場で、われわれの研究が役立てるといいかな。ですから、機械とかロボットとのコミュニケーションの一つのツールとして、役立てると面白いかなというふうには思います。

山村:今、お話聞きながら思ったんですけれども、今、お話しされていたのは、例えばAIと人間との間の話。人間と人間との間では、曖昧さって結構、分かるわけですよね。特に日本人の場合、「間」の文化とか、あるわけで、それが何となく分かるっていうね。

AIと人間の場合は、なかなかこれが、曖昧さは分からないかもしれないんだけど、AI対AIであれば、AI世界の曖昧さみたいなものを、ディープラーニングで学んでいって、作り上げるなんてことはあり得るんですかね。この辺は、別に、正しくなくてもいいんだけど、先生が空想の世界で言ってもらえるといいんだけど。

渡辺:非常に面白い発想というか、アイデアだと思います。

山村:お褒めいただきありがとうございます。

渡辺:可能性は、十分あると思います、ただ、いずれにしろ、最後は人間社会をどうするかっていうことになりますので、機械同士でコミュニケーション取って、会話をするのはもちろん構わないと思うんですけど、それが、人間がそこの社会に入ったときに、やっぱり人間優先というか、人間が中心となって行動するわけですから、また彼らといいますか、機械が、人間の言葉に合わせて、行動してくれると面白いかな。

山村:そうですよね。今、お話を伺ってると、満たされた状態とか、愛着であったりとか、あるいは豊かさっていうようなものを数値化していくっていう、よく、コップに水が、例えば3分の1、残っていた場合に、3分の1しか残ってないって思う人と、3分の1まだあるっていうふうに思う人っているじゃないですか。

渡辺:ありますね。

山村:ああいうのはどうなんですかね。というのは、満たされないというふうに感じている人というのは、感性工学的に示唆できるようなものって何かあるんですか。

渡辺:それは、個人の心理特性といいますか、性格といいますか、ですから、物事を前向きに考えるのか、少し慎重に考えるのかっていう性格もありますし。

山村:そういう世界なんだよね。

渡辺:ですので、一般的にはどうかっていう議論はできると思うんですけども、その一個人に対して、その場の、その人の心理状態を推察して、どう思ってるかっていうのは、今のところは難しいですね。

山村:感性工学と心理学とね、認知心理学と、いろんな分野とうまく融合できたら、面白い、本当に、研究できるなと思うんですよね。

渡辺:われわれ、学会とかに行って、他の研究機関、大学も含めてのかたがたといろいろ議論するんですけれども、やっぱり心理学を専門にしてる人とか、工学の中でも、工業デザインの専門にしてるとか、そういうふうにいろいろな人が融合して、一つの新しい枠組みというか、物を作り上げようっていう雰囲気がありますので、単純に何かの分野に特化した学問ではなくて、いろんなところで、先ほど新型コロナの話もありましたけど、社会性を持った議論ができたり、個人の話もできたりっていうことなので、いろいろな可能性はある分野だとは思ってます。

山村:そもそも人間の持つ感性っていうのは、皆さん違うわけだけど、例えば、感性が豊かな人ってよく言葉あるじゃないですか。その感性が豊かか豊かじゃないか、そういう二者択一ではなくて、もっとグラデーションしてると思うんだけど、感性を豊かにするには、例えばどんなことが必要だとかって何か、先生は感じることありますか。

渡辺:「三つ子の魂百まで」って言いますので、幼少期にいろんな経験をするっていうと、感性豊かな子が育つんじゃないかなとは思いますけど、今、接してるのはもう大学生なので、なかなか凝り固まってる子もいたり、ただ、いろいろ話したり、議論してるうちに、考えが変わったりとか、自分の考えはベースにして、他の人の考えが、自分とは違う考えの人がいて、こういう考えを持ってるんだっていうふうに、お互いに理解しようと、そういう努力をする学生もいますので。だからどうすれば育めるかっていうのは難しいところではあるんですけど、ありきたりな回答で申し訳ないんですけど、いろいろな経験をしていくしかないかなと。

山村:われわれ、採用する側の立場にいると、今の大学生の人たちに、本当にいろいろな体験をしてきてほしいなって思うんだけど、特に、今の感性の話で言うと、例えば、今ちょうど新緑が出てくると思うんですけど、同じ新緑とは言っても、同じ緑と言っても、みんな違うんですよね。

渡辺:そうだと思います。

山村:あの感覚を、自分が体験として分かってきてほしいなというかね、体験してきてほしいななんて思うことはよくあるんですけれども。でも、感性工学の分野で、感性っていうのをどう育んでいくのかなっていうのも、またちょっと。

渡辺:どう育んでいくかというか、育まれたものをどういうふうに数値化するかっていうところなので、結果的に、いくつかに例えば分類されて、同じ新緑を見ても、こういうふうにAって感じるグループと、Bって感じるグループとか、Cって感じるグループとかっていうふうに、そういうふうに分けることっていうのは、一応、この分野ではできそうなんですけども。

山村:せっかくだから、感性を育むようなこともやってってもらえるとね、いいなと思って。

渡辺:それは非常に個人的には興味があるお話だと思いますので、ぜひ。

山村:先生が定年になる前に、やってみてください。

渡辺:ありがとうございます。

山村:ありがとうございました。きょうは、宇都宮大学工学部附属ものづくり創生工学センター、副センター長、準教授の渡辺信一先生にお話を伺いました。先生、きょうはありがとうございました。

渡辺:ありがとうございました。

ロボットについての感性を引き続き、育みたい方はこちら。

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